冬の園内の楽しみ方——冬芽観察のすゝめ(12/12更新)

園内で観察できる冬芽たち(右上から時計回りにハウチワカエデ‘舞孔雀’、トサミズキ、シナマンサク、オニマタタビ、トチノキ、アブラチャン、ガマズミ、サラサレンゲ、ブナ)

今週の見ごろの植物

毎週、園内を巡回しておとどけします。

ここ高知も最低気温が2、3℃の日もあるくらい朝晩がめっきり冷え込むようになりました。晩秋のころは園地でにぎやかだった野生ギクの仲間も、ダルマギクやサツマノギクなど盛りが過ぎ、花が見ごろの植物は目に見えて減ってきました。では、植物園で見るものはないのか、なんて早合点しないでください。冬は冬の楽しみ方があって、暖かい温室で熱帯の植物を観察するのもいいですが、暖かい格好で園地に繰り出し『冬芽の観察』をしてみるのはいかがでしょう。

冬芽(休眠芽)とは?

植物は発芽し根を下ろしてしまうと基本的に動くことができません。そんな植物が生育に適さない環境を乗り切るために形成する特殊な芽を休眠芽といい、そのなかでも冬の低温や乾燥から身を守るために形成する芽を特に冬芽(とうが、ふゆめ)とよびます。冬芽の中には生存や繁殖に重要な、葉や花が折りたたまれて収納されています。冬芽の形態は多種多様で、まるで暖かいコートを被ったように見えるものや、鎧に身を包んだように見えるもの、幼い葉のまま冬をやり過ごすもの、植物体に埋もれて芽が見えないものなど、じつにさまざまです。

冬芽は大きく分けると3つのタイプに分かれます。

冬芽はその形態から鱗芽(りんが)裸芽(らが)隠芽(いんが)に大きく分けることができます。

鱗芽(りんが)は葉がうろこ状に変化した芽鱗(がりん)に覆われるタイプで、ブナ科やバラ科、ムクロジ科、モクレン科など多くの樹木で見られます。

トチノキ(ムクロジ科)。水あめ状の樹脂をまとうため触るとべたつく(連絡道)
カラタネオガタマ(モクレン科)。褐色の毛が密生する(ふむふむ広場)
オオカナメモチ(バラ科)。鮮やかな紅色が美しい。(薬用植物区)
コブシ(モクレン科)。長軟毛に覆われ、芽鱗は見えにくい(連絡道)
アラカシ(ブナ科)。水滴形で断面は五角形。多数の芽鱗が整然と並ぶ(こんこん山広場)
ネコヤナギ(ヤナギ科)。芽鱗は1枚で帽子状。白い毛が密生する(土佐の植物生態園)

裸芽(らが)は芽鱗がなく、その代わりに幼い葉が芽を覆い、春になると幼い葉が脱落せずに展葉するタイプで、ヤマアジサイ(アジサイ科)や、ビロードムラサキ(シソ科)、ヤマビワ(アワブキ科)などで見られます。

ヤマアジサイ‘雅’(アジサイ科)。幼い葉が芽を覆い、春になるとこれらが脱落せずに展葉する(南園)
ビロードムラサキ(シソ科)。白茶色の星状毛を密生する(回廊)

隠芽(いんが)は葉痕や樹皮などに埋もれていて芽が直接見えない(あるいは一部だけ露出する)タイプで、オニマタタビ(キウイフルーツ)やネムノキなどで見られます。

オニマタタビ(マタタビ科)。冬芽は隆起した葉痕に埋もれる(南園)
オニマタタビの枝の断面を見ると冬芽が埋もれているようすがわかる。

花芽(かが)と葉芽(ようが)

冬芽には花になる花芽と、葉になる葉芽、1つの芽で葉と花が展開する混芽(こんが)があり、花芽と葉芽は外見から区別できるものも多くあります。

サラサレンゲ(モクレン科)。葉芽は花芽よりも小さく、密生する毛も短い(展示館周辺)
シナマンサク(マンサク科)。葉芽は扁平な裸芽(南園)
アブラチャン(クスノキ科)。葉芽は水滴形で赤みを帯びる。花芽は葉芽基部に2-4個つく(土佐の植物生態園)
ナンバンキブシ(キブシ科)。穂状花序で、多数の花芽がつく(土佐の植物生態園)

冬の園内は花が少ない分、どうしても華やかさに欠けてしまいますが、冬芽はこんなにも千差万別。寒いから家で、なんて言わずに冬だからこそ面白い、冬芽を観察してみてはいかがでしょうか。

参考文献:広沢毅(解説),林将之(写真).2010.冬芽ハンドブック.文一総合出版

広報・ガイド班長 西村 佳明