トカラタマアジサイが咲いています(8/14更新)

今週の見ごろの植物

毎週、園内を巡回しておとどけします。

トカラタマアジサイ(アジサイ科)
本館ウッドデッキにて8/14撮影

本館のウッドデッキ中央の柵をのぞき込むと、トカラタマアジサイが淡い紫色の花(花序)を咲かせています。その名のとおり、鹿児島県トカラ列島の口之島(くちのしま)と諏訪瀬島(すわのせじま)、沖縄県八重山諸島の黒島(くろしま)の3島にのみ自生するアジサイの仲間で、1996(平成8)年にタマアジサイの変種として堀田満博士と志内利明氏両名により発表されました。

和名の由来である球状の蕾
他の多くのアジサイ属の花序と同様、中心の両性花を装飾花が囲む

母種であるタマアジサイの和名や学名は総苞に包まれた蕾が玉のような球形をしていることに由来します(トカラタマアジサイの学名Hydrangea involucrata var. tokarensis のinvolucrataは「総苞に包まれた」の意)。自生地の3島では個体数が極めて少なく、環境省レッドリスト(2025)では絶滅危惧ⅠA類 (CR)に指定されている希少種です。

トカラタマアジサイの分布は植物地理学的にも本当に面白いテーマです。タマアジサイは本州(宮城県から近畿地方)に分布しますが、トカラタマアジサイはそこから四国や中国地方、九州本土を飛び越え、トカラ列島や八重山諸島という島しょに分布します。トカラ列島は、日本の動物相や植物相の重要な分布境界線の一つとして有名な「渡瀬線」をまたぐ地域で、冷涼な本土の植物が、なぜ熱帯の入り口であるトカラ列島まで分布を広げ、そして変種となったのか。海峡や島しょによる隔離が生んだトカラタマアジサイは、単に珍しいアジサイの仲間ではなく、日本列島の植物地理と島しょ分化を考える材料になる植物です。

両性花は淡紫色で、装飾花は白色

植栽場所は一般の来園者が立ち入りできないエリアですが、図書室のガラス窓からもご覧いただけます。8/14現在、名前の由来である丸い蕾もまだまだたくさんあるので、しばらく見ごろは続きそうです。この機会にぜひ観察してみてください。

シマサルスベリ(ミソハギ科)
芝生広場にて8/14撮影

北園の芝生広場に植栽があり、白い花を咲かせています。まず、本種や近縁のサルスベリはミソハギ科。ミソハギは盆花によく使われる草本(草)で、ミソハギの仲間というと我々日本人には木本(木)のイメージはあまりないかもしれません。しかし、世界に目を広げると熱帯を中心に木本(木)も多くあり、国内では本種を含むサルスベリ属のほか、果実をジュースなどに加工して食されるザクロ属などが見られます。

樹皮は平滑で高木に成長する
芝生広場の株は1999(平成11)年、シンボルツリーとして植えたもの

シマサルスベリの花は近縁のサルスベリほど目立たないので、見ごろではあるものの花に気づかない方も多い、少し勿体ない植物です。どちらかというと猿も滑りそうなすべすべの樹皮のほうが注目されるようで、よく触られるのか手の届きそうな場所は所どころ白っぽいワックス質が取れてしまっています。

本種は屋久島、種子島などの南九州から琉球列島の各島、さらに台湾から中国大陸に分布する落葉高木で、山林中に生育します。サルスベリよりも大径木となり、枝はよく分枝し葉を茂るため、芝生広場のものはよい木陰を提供しています。ちなみにこの株は1999(平成11)年、シンボルツリーとして植えたものです。

サルスベリの花 連絡道にて8/7撮影
サルスベリの幹 シマサルスベリよりも幹は細く、盛んに分枝することも多い

サルスベリが主に鮮やかな紅色の花を咲かせるのに対し、シマサルスベリの花は白色です(ただし、サルスベリにも白花を咲かせるものがある)。また、サルスベリはシマサルスベリよりも幹は細く、株元や幹の下部から勢いよく萌芽して分枝することも多いです。両種とも枝先に円錐花序をつけて多数の花を咲かせます。

シマサルスベリの花の構造その1

シマサルスベリの花を観察してみましょう。一つ一つは1センチ程度の小さな花ですが、よく観察するといくつか面白い特徴があります。花弁は6枚で、波打つようなしわが目立つほか、基部が細い糸状になった独特な姿をしています。1本の雌しべと多数の雄しべがありますが、雄しべは姿や役割が異なる2つのタイプがあり、異形雄しべとよばれます。

シマサルスベリの花の構造その2

本種の異形雄しべは、6つの長い雄しべと多数の短い雄しべからなります。多数の短い雄しべは、鮮やかな黄色の花粉にまみれていますがそれは見かけだけ。受精しない不稔の花粉でもっぱら花粉を目当てに訪れた昆虫の餌となります。受粉にかかわるのは6つの長い雄しべで、葯が内側を向いていて、昆虫が鮮やかな黄色の花粉に夢中になっている間に長い雄しべの葯が身体に触れて花粉が付き、まんまと花粉の運び屋に仕立て上げられる、という寸法です。

時折吹く風を感じながら本種の木陰で休憩する際は、すべすべな樹皮に触ると同時に芸の細かな花をじっくり観察してみてください。

トウテイラン(オオバコ科)
連絡道にて8/14撮影

連絡道で青紫色の美しい花を咲かせています。本種は京都府・兵庫県・鳥取県の日本海側や隠岐島に分布し、海岸に生育する日本固有種です。和名は花の色が中国の洞庭湖の水の色のように美しいことに由来しますが、上述したとおり日本固有種で中国大陸に所縁はありません。学名はVeronica ornataで、ornataは「美しく飾られた」を意味し、和名と同様その美しい花の色や姿に由来します。

本種を含むVeronica=クワガタソウ属は従来ゴマノハグサ科に属していましたが、近年主流となっている遺伝子を用いたAPG分類体系ではゴマノハグサ科が大きく再編され、Veronica=クワガタソウ属はオオバコ科に組み込まれました。同属のものに身近なものだと西アジア原産で日本全土に広く帰化しているオオイヌノフグリがあります。

トウテイランの葉(左:裏面 右:表面)
特に葉の裏面は綿毛(毛状突起、トライコーム)が密生し緑白色を呈する

植物体全体が白っぽく、特に葉の裏面は緑白色に見えますが、これは綿毛(毛状突起、トライコーム)に覆われており光が散乱することから。お庭にシルバーリーフとしてよく栽培されるキク科のシロタエギクと同様のメカニズムです。

自生地環境の開発や園芸目的の盗掘などにより環境省レッドリスト(2025)では絶滅危惧Ⅱ類 (VU)に指定されています。暑さに負けず美しい花を咲かせる本種をぜひご覧ください。

広報課 西村佳明