ジョウロウホトトギスが見ごろです(10/9更新)

今週の見ごろの植物
What’s in Bloom

毎週、園内を巡回しておとどけします。
ただ今開催中の企画展 岩谷雪子作品展「草木と出会う−Encountering Plants」の詳細はこちら
ジョウロウホトトギス(ユリ科)

非常に人気が高く、この時期たくさんのお問い合わせをいただくジョウロウホトトギス。本館と回廊をつなぐ回廊で、黄色の釣り鐘状の花を咲かせています。現在見ごろに差し掛かり、次々と花数が増えてきました。来週末には
キイジョウロウホトトギスや
キバナノツキヌキホトトギスの花も加わって、回廊がにぎやかになるでしょう。
本種は高知県の石灰岩地にのみ自生する希少種で、山中の岩肌から垂れ下がるように生えます。牧野博士が23歳のとき、高知県越知町にある横倉山で発見、採取した標本をロシアのマキシモヴィッチ博士に送って、マキシモヴィッチ博士はこれを新種として学名をつけました。和名は、気品あるその姿を上﨟(じょうろう:位の高い女官のこと)に見立てたことに因ります。牧野博士が和名を付けましたが、植物分類学の世界では、あくまで学名をつけた人が命名者。したがってジョウロウホトトギスは、博士が発見したものの、命名者ではありません。それでも博士は自費出版した初の著作『日本植物志図篇』の巻頭図に自身が描いた本種の図を選ぶほど、強い思い入れがあったようです。
来週末には近縁のキイジョウロウホトトギスと花の比較もできると思います。外見がよく似ている両種ですが、見分けるポイントがいくつかあるので、この機会に予習をしておきましょう。

まずは花の違いから。両種とも花被の内側に紫褐色の斑点が密につきますが、ジョウロウホトトギスは花被の縁まであるのに対し、キイジョウロウホトトギスは縁まで達しません。

葉にも違いがあって、ジョウロウホトトギスの葉は卵形~長卵形で丸みがあり、葉の基部は左右とも茎の前側に出ます。一方、キイジョウロウホトトギスは葉がより細長く、基部がねじれて、左右の一方が茎の裏側に回ります。観察の際の参考になさってください。
アサギマダラが飛来しています

10/7(水)から3日連続でこんこん山広場で「旅する蝶」アサギマダラが観察されています。本種は長年のマーキング調査で、秋に日本本土から南西諸島・台湾への渡り個体が多く発見され、その移動や生態が多くの愛好家や研究者を惹きつけます。
成虫はフジバカマやヒヨドリバナの花を好んでよく訪れるので、フジバカマがたくさん植栽されている、こんこん山の草原エリアが比較的遭遇しやすいでしょう。
幼虫のころにキジョランなどのキョウチクトウ科の植物を食べて毒を蓄え、植物由来の毒性成分を体内に取り込んで外敵から身を守るといわれています。成虫もやはり襲われにくいのか、ゆったりと飛ぶ姿にはどこか余裕を感じます。
翅の白っぽい、浅葱色の部分はもともと鱗粉が少ないようで、撮影した写真をよく見直すと、フジバカマの影が映り込んでいるだけでなく、向こう側のフジバカマの花まで透けて見えていて、繊細なつくりに感動しました。
園地では動植物の採集は禁止されておりますので、ご覧になる際は観察だけに留めてくださいね。
オオクサボタン(キンポウゲ科)

回廊ではオオクサボタンも咲き始めました。本種は四国・九州に分布する落葉小低木で、湿った林床に生えます。和名の由来はボタンのような葉を持ち、北海道の一部や本州の草地などに生育するクサボタンよりも葉や花が大型であることから。


茎は立ち上がって木質化して高さ1メートルほどの小低木になり、茎頂や葉腋(葉柄の付け根)に淡い紫色で鐘状の花を下向きに咲かせます。


雰囲気がかなり異なるので驚かれる方が多いのですが、本種はなんと、クレマチス(センニンソウ属)の仲間。フェンスなどに絡みつくつる植物を思い浮かべる方が多いですが、本種はつるにならず、茎を立ち上げて成長します。
本種は牧野博士が学名をつけた植物の一つで、学名は Clematis speciosa (Makino) Makino ―― speciosa は「美しい、見栄えがする」という意で、可憐なたたずまいに心を惹かれたのでしょうか。また、著者名の (Makino) Makino にも、博士の研究の足跡が残っています。博士は当初、本種を中国から朝鮮半島に分布するトウクサボタンの変種と考え、C. heracleifolia var. speciosa Makino を発表しています。その後、分類学的な検討が進み、本種は独立した種として扱われるようになり、現在はひとまず C. speciosa に落ち着いています。植物分類学では、新たな標本や研究成果が蓄積されることで、植物の分類上の位置づけが見直され、学名が変更されることがあります。カッコの中と外がどちらも「Makino」なのは、最初の学名を発表した(カッコ内)のも、その後に分類上の位置づけを改めて学名を組み替えた(カッコの外)のも牧野博士自身だからです。学名の意味を調べたり、著者名から学名の変遷をたどってみたり、学名を紐解くのも面白いものです。
リンドウ(リンドウ科)

薬用植物区ではリンドウが鮮やかな青紫色の花を上向きに咲かせ始めました。本種は本州(西部)・四国・九州に分布し、山野の日当たりのよい草原などに生える多年草です。高知県内では低山から高山まで幅広く見られます。


本種は花冠の先端に5枚の裂片と5個の副片をもつ鐘形の合弁花で、このうち副片はリンドウの仲間(リンドウ属)を特徴づける形態の一つです。花は天気の良い日中、陽が当たると平開し、陽が沈む夕方以降や雨の日は、パラソルのようにねじって閉じます。天候に合わせて花を開閉するのは、晴れた日には訪花昆虫に花粉を運んでもらい、雨の日には雨で花粉が流れたり傷んだりするのを防ぐためと考えられています。
ちなみに、いったん閉じた花が再び開くとき、花を動かしているのは花冠そのものではなく、花冠の内側にある表皮細胞。細胞への水の出入りによって細胞が膨張し、花冠を開いていくことが研究で明らかになっています。

本種の花は他にも、ユニークな仕組みがあります。本種の花は雄しべと雌しべが同居する両性花ですが、開花すると、まず、5本の雄しべが成熟して花粉を出す「雄性期」になり、その後、雄しべが縮れて、雌しべの柱頭が2裂して受粉可能になる「雌性期」になります(雄性先熟)。両者が機能するタイミングをずらすことで自家受粉を避けようとしていると考えられています。10/9現在、咲きはじめのため雄性期の花しかありませんが、来週初めには雄性期と雌性期の花がどちらもご覧いただけると思います。

根は非常に強い苦味をもち、古くから生薬「竜胆(りゅうたん)」として利用されてきました。この苦味のもととなるのが、ゲンチオピクロシドなどの配糖体です。苦いことで知られるセンブリの苦味成分スウェルチアマリンよりも強い苦味を示す成分もあり、本種の根にはスウェルチアマリンも少量含まれています。竜胆は漢方などに配合され、健胃や消炎・鎮痛などを目的として利用されてきました。
花は美しく、薬用としても利用される本種ですが、多くの地域で数を減らしています。本種が生育する草原は、近代以降、ライフスタイルの変化などによって人との関わりが薄れ、それに伴って多くが姿を消してきました。草原を主な生育環境とする本種の減少も、こうした環境の変化と無関係ではありません。
広報課 西村佳明

