岩谷雪子作品展と解説ラベルのない植物たち(10/2更新)

今週の見ごろの植物
What’s in Bloom

毎週、園内を巡回しておとどけします。
牧野植物園では明日10/3(土)から企画展 岩谷雪子作品展「草木と出会う−Encountering Plants」を開催します。
企画展 岩谷雪子作品展「草木と出会う−Encountering Plants」
会 期 :令和8年10月3日(土) ~ 令和9年3月22日(月・休)
時 間 :9:00~17:00(最終入園14:30)
会 場 :牧野富太郎記念館 展示館 企画展示室・植物画ギャラリー

企画展 岩谷雪子作品展「草木と出会う−Encountering Plants」
牧野富太郎記念館 展示館 企画展示室・植物画ギャラリー植物で繊細な立体やインスタレーションを制作する高知県在住の造形作家 岩谷雪子の作品展を開催します。岩谷は、華やかな植物よりも見逃してしまいそうな小さな植物を題材に、自ら採集し乾燥させた植物による創作活動を1995年から続けています。それに先立つ1982年、高知県に移住してから牧野富太郎が日本の植物分類学の礎を築いた人物であることを知り、富太郎の植物に対するひたむきな思いに共感してきた、と岩谷は語ります。
本展では、会場を「“雑草”たちの名前」、「牧野博士の植物園で」の2つに分け、岩谷が富太郎へのリスペクトを込めて制作した作品約50点を展観します。
岩谷雪子のプロフィールはこちら(外部リンク)
第1会場「“雑草”たちの名前」では、富太郎が語ったとされる「“雑草”という草は無い。」の言葉をテーマに、街の片隅や草むらでたくましく生きる、いわゆる“雑草”とよばれる植物に焦点を当てた作品が並びます。
解説ラベルのない植物たち
企画展で取り上げる“雑草”――園地に目をやると、元々そこに生えていたものや、種子が風などで飛んできて知らぬ間に定着したものなど、解説ラベルがついた植物以外にもさまざまな植物が生えています。普段は見過ごしてしまいがちな、そんな植物たちにも目を向けてみると、したたかな生存戦略や、ほかの生きものとのつながりが見えてきます。今週のブログでは、園内で見つけた、そういった植物たちに目を向けてみました。
チヂミザサ(イネ科)


日本全土の林下に普通に見られる多年草です。園内各所の林縁などでご覧いただけますが、観察するなら連絡道のトビカズラの株元あたりが分かりやすいでしょう。10/2現在、開花の盛りで、小さい花をじっくり観察すると雌しべと雄しべがそれぞれ確認できます。


和名の由来は、笹のような葉に縮んだようなしわがあることから。チヂミザサには、毛の多いものをケチヂミザサ、毛の少ないものをコチヂミザサとして区別することもありますが、現在はこれらをまとめてチヂミザサとして扱うことも多いです。茎の下部が地面を横に這って各節から不定根や分枝を生じ、マット状に広がって、ときに繁茂します。
秋になると花茎が立ち上がり、もう少しすると粘液でベタベタする小穂をつけます。動物が触れると小穂から頴果(えいか:イネ科に見られる果実の型のひとつ)が外れて身体に付着し、自身の種子を運んでもらう「付着型の動物散布」という、したたかな戦略を持ちます。我々人間にはいわゆる「引っ付き虫」として嫌われがちで、かく言う私もズボンや靴に大量に付くのでほんっっとうに、滅入ります。粘液からは一種の臭気がするため、ネバネバする小穂を観察する際には、ぜひ匂いも嗅いでみてください。
カラムシ(イラクサ科)

カンナローズ園のあたりにはカラムシが生えています。職員は気になるたびに本種を引っこ抜きますが、地下を横走する走出枝から地上部を容易に再生するため、いたちごっこです。


本種は日本全土に広く分布し、路傍など日当たりのよい場所に生えます。葉はシソ(大葉)のような形をしていて毛が多く、特に裏面は綿毛を密生し、白く見えます。本種に近縁で、中国南部から東南アジア原産のナンバンカラムシが高知を含む西南日本を中心に定着しており、両種が生えるところでは雑種を作ることも。本種は旺盛に繁茂し、畑に侵入すれば防除も難しいことから今では厄介者として扱われます。
一方で、茎から丈夫な繊維が取れることから、古くから各地で栽培されてきた側面もあり、越後上布や宮古上布などの原料に使われるなど、人々の暮らしを支えてきた重要な繊維作物でした。諸説ありますが、和名はその利用法「茎(カラ)を蒸して繊維を取ったこと」に由来するという説があります。また、古くはカラムシを「苧(むし)」と呼んだ例もあって、鎌倉時代初期の歌集『建礼門院右京大夫集(けんれいもんいんうきょうのだいぶしゅう)』には、「七夕に今日やかすらむ野辺ごとに乱れ織るなる苧(むし)の衣も」という歌が残されています。


ちなみに、カラムシの仲間には、繁殖の仕組みが面白いものもあります。カラムシと違って園内で解説ラベルのついた(スポットライトを浴びる)
ヤブマオやコアカソは、大部分の株が3倍体で、雌花しかつけない雌株です。これらは「無融合生殖」という特殊な繁殖様式によって、受精することなく母親とほぼ同一の遺伝子を持った種子をつくって子孫を増やします。
アカメガシワ(トウダイグサ科)

園内ではこんこん山広場の
イイギリのあたりや、薬用植物区の最下段など園内各所に生えています。


本州・四国・九州の日当たりのよい山野にふつうに見られる落葉小高木で、その名のとおり、新芽は赤みを帯び、特に春先などは鮮やかで美しい見た目をしています。本種は古くから利用されてきた薬用植物でもあり、樹皮を基原とする生薬「アカメガシワ」は、日本薬局方に収載されています。
本種は典型的な先駆植物(パイオニア・プランツ)のひとつで、伐採や林道造成などによって林床に陽光が差し込むようになると、それまで土の中で眠っていた「埋土種子」が発芽し、素早く成長します。アカメガシワの種子は長期間にわたって土中で生き続けることが知られており、森林総合研究所によれば、100年以上生存するともいわれます。今は鬱蒼とした林下でも土の中には出番を待っている本種の種子が眠っているかもしれません。


本種は荒れ地を生き残るために他にもさまざまな仕掛けを持っています。葉には花外蜜腺と呼ばれる蜜を出す器官があり、アリを呼び寄せます。アリを避ける虫は多く、アリが蜜を舐めに葉に訪れることで、ガの幼虫などによる食害を抑えると考えられています。根元から折れても萌芽力が高く、その成長スピードも相まって幹を短期間に再生します。
そんな本種も、スダジイやタブノキなどが占める薄暗い林に移り変わると、やがて姿を消していきます。園内で「いつの間にか生えてきた」と思っていたアカメガシワも、実は長い時間をかけて出番を待ち、環境の変化に応じて姿を現しているのかもしれませんね。



企画展 岩谷雪子作品展「草木と出会う−Encountering Plants」では先に紹介したチヂミザサやカラムシを含む約50点の作品がご覧いただけます。岩谷が仔細に植物を観察し対峙するなかで、形態や生態から見いだし、感じたものを再構築した作品は、創意工夫にあふれた植物の形や機能の巧みさ、それらの不思議さへの気づきと驚きを与えてくれます。ぜひ、会場でじっくりと作品をご鑑賞いただき、植物たちの新たな魅力を発見してください。
広報課 西村佳明

