ウマノスズクサが咲きました(6/19更新)

今週の見ごろの植物

毎週、園内を巡回しておとどけします。

ウマノスズクサ(ウマノスズクサ科)
薬用植物区にて6/19撮影

薬用植物区で見ごろです。本種は本州(関東地方以西)・四国・九州、中国に分布するつる性の多年草で、川沿いの土手や林縁など日当たりのよい環境を好み、ほかの植物などに絡みながら伸長します。和名は葉が馬面に、果実が馬につける鈴に似ていることに因ります。花弁はなく、萼が筒状に発達した特異な形の花を咲かせます。来園者からはその見た目からウツボカズラの仲間と勘違いされることがありますが、食虫植物ではありません。しかし後述する、虫を狡猾に利用するさまはその花のフォルムと相まって、怪しげな魅力にあふれています。

花からは肉が腐ったかのような匂いがし、誘いに乗ったショウジョウバエなど小さなハエにはこのあと苦難が待っています。咲きはじめた時の花と咲き進んだ花をそれぞれ解剖してみました。

咲きはじめの花のようす
花を切ってみるとコバエが。出られず疲れ果てたのか飛ばずに歩き回るのみだった。

本種は雌しべと雄しべが成熟するタイミングが異なり、雌しべが先に成熟します(雌性先熟)。花が咲きはじめのころ(雌性成熟期)と咲き進んだあと(雄性成熟期)では萼筒の中のようすが様変わりします。

【雌性成熟期】咲きはじめのころ、筒の中には奥に向かって毛が密生し、一度進入したハエは進むことができても戻ることはできず、最奥の雌しべ(と未成熟の雄しべ)がある膨らんだ部屋に閉じ込められます。花をカッターなどで切るとコバエが飛んで逃げることもしばしばあり、ブログ執筆のために切ってみると出られず体力を使い果たしたのか飛ばずに歩き回るコバエがいました。死んだコバエを見ることもあり、閉鎖空間の過酷さをものがたります。

咲き進んだ花のようす
咲き進むと雄しべが成熟する

【雄性成熟期】その後、花が咲き進むと筒の中にあった毛が脱落し、閉じ込められていたハエは(生きていれば)やっと、花の外に抜け出せます。

本種は、雌しべと雄しべが成熟するタイミングをずらすことで別の花との花粉のやり取りを促して遺伝的多様性を高め、近交弱勢を防ごうとします。また、既に花粉をまとったハエが咲きはじめの花に進入すれば、逃げられないようにして受粉させようとする、強い意志のようなものを感じずにはいられません(といっても国内での結実はまれのようです)。

本種はアリストロキア酸などの有毒な成分を含みますが、ジャコウアゲハの幼虫の食草としても知られます。ジャコウアゲハの幼虫は本種を食べて有毒成分を蓄積させ、鳥などの外敵に襲われにくくしています。話は逸れますが、ジャコウアゲハによく似たアゲハモドキやクロアゲハなどのガやチョウがいます。彼らは「ベイツ型擬態」といって、毒蝶であるジャコウアゲハの姿を真似ることで天敵に狙われにくくしていると言われており、そんなちゃっかり者が生まれる生き物の進化というのは神秘的でとてもおもしろいなと思います。

オオボウシバナ(ツユクサ科)
展示館中庭にて6/19撮影
ツユクサ(左)とツユクサの園芸品種であるオオボウシバナ(右)

ツユクサと何が違うのか、という声が聞こえてきそうです。6/19現在、展示館中庭で咲きはじめで、日に日に花数も増えてまいります。本種はツユクサの園芸品種で、牧野博士が1901(明治34)年、東京大学で栽培されていたものをもとに「植物学雑誌」にて学名Commeiina communis Linn var. hortensis Makinoとして発表しました。花の径が4cm近くになるほか、葉も茎も大柄で直立します。

花の青色は「コンメリン」とよばれるマグネシウムを含んだ色素によるもので、水洗いにより除去できるため、和紙にしみこませて乾燥させた「青花紙」は、友禅染の下絵の絵の具として古くから利用されてきました。滋賀県草津市を中心に栽培され、牧野博士も植物学雑誌に発表した際に特産地として紹介されています。当園の系統は草津あおばな会に依頼し種子を提供していただいたものになります。

オオボウシバナの花の収穫は過酷です。本種は夏に咲くため暑い中での作業となるのに加え、早朝に咲いた花は昼くらいには萎む一日花のため、大急ぎで花だけ手作業で摘まなければならず、また次々開花するので夏の間は晴れていればほぼ毎日摘む必要があります。ツユクサよりも花は大きいもののそれでも青花紙を作るためには膨大な量の花を集めなければならず、その過酷さから地獄花ともよばれたようです。

花を詳しく観察してみましょう。

オオボウシバナの花の構造
ツユクサとの比較

オオボウシバナ(ツユクサと同様に)は花弁が3枚で、大きな2枚と萼のような小さな1枚があります。萼も3枚で、この花だけかもしれませんが、1枚の萼が弁化していました。雌しべは1本、雄しべは6本(異形雄しべ)あり、うち2本は長く花冠から飛び出して訪花昆虫の身体に花粉をつけます。一方、残りの4本(仮雄しべ)は短く鮮やかな黄色をしますが、正常な花粉は少なく、訪花昆虫が花に顔を突っ込んだ際の報酬(食料)として機能するようです。

ツユクサとの違いがイマイチ分からなかった本種も、並べてみると大きさの違いに驚きますよね。花は昼ごろには萎むので午前中の来園をおすすめします。

広報課 西村佳明