【五台山観月会】中秋の名月と秋の七草(9/25更新)

今週の見ごろの植物

毎週、園内を巡回しておとどけします。

朝晩が涼しくなり、秋の気配を感じるようになってきました。牧野植物園では今週末26日(土)と27日(日)の2日間、南園を会場に夜間開園「五台山 観月会」を開催します。

夜間開園「五台山 観月会」

会 期 :令和8年9月26日(土)・27日(日)
時 間 :17:00~21:00(最終入園20:30)
会 場 :南園

五台山 観月会 ―名月とともに秋の草花を愛でる夕べ―

奈良時代、聖武天皇の勅願により文殊菩薩の聖地・中国五台山からその地名と寺名をとり、霊地として定められた五台山 竹林寺。その脇坊跡に造られた当園の南園は当時の面影が随所に残されており、約1,300年の時を経た今もなお歴史が息づいています。また、南園にある結網山の頂から見る月の美しさは、桂浜とならび古くから土佐の人々に愛されてきました。

その南園 50周年記念庭園を会場に、お月見飾りや秋の七草を中心とした園内の植物とともに名月を眺める観月会を開催します。会場ではオミナエシやススキなどの草花を万葉の歌とともに展示するほか、クラシックギターによる音楽演奏を楽しんでいただけます。風情ある秋のひとときをお楽しみください。

秋の七草ってなに?

そもそも、秋の七草とは一体何でしょうか。秋の七草は、食して無病息災を願う春の七草とは違い、野に咲く姿を眺めて季節の移ろいを楽しむ「鑑賞する」七草です。

ミヤギノハギ(マメ科)
ススキ(イネ科)
クズ(マメ科)
カワラナデシコ(ナデシコ科)
オミナエシ(スイカズラ科)
フジバカマ(キク科)
キキョウ(キキョウ科)

秋の野に 咲きたる花を 指(および)折りかき数ふれば 七種(ななくさ)の花
萩(はぎ)の花 尾花(おばな)葛花(くずはな) なでしこの花 をみなへし また藤袴(ふじばかま) 朝貌(あさがお)の花

―山上憶良―

日本最古の和歌集である『万葉集』において、山上憶良が詠んだこの二首が、秋の七草の直接の出典です。この歌に詠まれたもののうち、尾花はススキ、朝貌はキキョウを指すとする説が有力です。

いずれも野山や里など、当時の人々にとって身近な場所に生育していた植物ですが、時代とともに人々の暮らしや土地の利用が変化し、それらの植物が生育していた草地や河原などの環境も変わってきました。その結果、かつて身近だった植物の中には、現在では数を減らしているものもあります。

フジバカマ(キク科)
ふむふむ広場にて 9/24撮影

本種もキキョウやカワラナデシコとともに、近年その数を減らしている植物の一つです。本州(関東以西)から九州、朝鮮半島、中国に分布する多年生草本で、湿り気のある環境を好み、川沿いの草原や土手などに生育します。

こうした環境では、草刈りなどの管理が行われなくなることでススキなどの大型の草本が繁茂し、さらに木本植物が侵入するなど、植生の遷移(せんい)が進み、フジバカマが生育できる開けた草地が失われてきました。また、治水のため上流にダムが建設され、河道が固定されるなど、河川環境そのものも大きく変化してきました。かつては洪水などによって河原の植生が攪乱(かくらん)され、日当たりのよい開けた環境が生まれていましたが、こうした環境が生じにくくなったことも、本種のような河川沿いに生育する植物に影響を与えています。

本種は多くの都府県で絶滅が危惧されており、環境省レッドリスト2025では準絶滅危惧(NT)、高知県レッドデータブック2022では絶滅危惧IB類(EN)に指定されています。

花色の違い
花茎上部の葉の形状の違い

ちなみに、園芸店などで「フジバカマ」として販売されているものには、中国原産とされるコバノフジバカマが多く、当園では、日本に自生するフジバカマと区別して扱っています。コバノフジバカマの頭花はフジバカマよりも赤みが強く、花茎上部の葉が3深裂するのが特徴です。フジバカマ、コバノフジバカマともに、「旅する蝶」として知られるアサギマダラが訪花する植物として有名です。また、枝葉を乾燥させるとクマリン由来の「桜餅のような香り」がするようになり、フジバカマは乾燥させたものを浴料に利用します。

園地では北園のふむふむ広場やこんこん山広場でフジバカマが、南園の牧野博士像周辺ではコバノフジバカマがそれぞれ観察できるので日中の間に両種を比較してみても面白いですよ。

ススキ(イネ科)
南園にて 9/24撮影

園内では南園のスイレンやハスが植栽されている池の周辺で見ごろです。本種は日本各地のほか、南千島、朝鮮半島、中国に分布する多年草で、平地から山地までの陽地に普通に生えます。

古くから人々の暮らしや文化に深く関わってきた植物で、かつては本種を刈って屋根材に利用する「かやぶき屋根」の家が各地で見られました。また、お月見の際はススキを月見団子などとともに飾ります。本種の穂は稲穂に似た姿をしていることから、豊作への願いを込めて飾られるほか、邪気を払うものとも考えられてきました。

ススキの葉を実体顕微鏡で撮影(20倍程度)
ススキの葉を実体顕微鏡で撮影(50倍)

そんな身近なススキですが、葉で手や足を切った経験がある人も多いのではないでしょうか。注意して葉の縁を指でなぞってみるとザラザラとした感触があります。これは葉の縁に蓄積したシリカ(二酸化ケイ素)などと細かな鋸歯によるもので、細かなギザギザがまるで鋭い刃物のように働きます。

南園にて 9/21撮影

ちなみに、本種の足元には、秋の七草には数えられていない『万葉集』ゆかりの植物、ナンバンギセルが観察できることがあります。園地では9/25現在、見ごろは終盤に差し掛かっていますが、前述の池のそばにある東屋から石階段を降り切ると、正面のススキの根元でひっそりと咲いていますので、今週末にでもぜひじっくりご覧ください。

ナンバンギセルは北海道から沖縄、中国(中南部・台湾)、インドシナ、マレーシア、インドに分布する一年草で、寄生植物として非常に有名です。葉緑体を持たず、自ら光合成を行うことができないため、宿主から栄養を得て生活しています。日本ではススキによく寄生しますが、熱帯地方ではサトウキビやショウガ属によく寄生し、ここ高知県ではミョウガの畑でも時折観察されます。

一年草であるナンバンギセルは、毎年同じ場所で花を咲かせるとは限りません。そのため、園でこの植物を見守る私たちにとっては、「今年も咲いてくれるかな」と、花茎が地上に伸びてくるまでハラハラしながら見守る植物でもあります。花はうつむいて咲き、物思いにふけているかのような姿から、古くはオモイグサ(思ひ草)とよばれ、『万葉集』には本種を詠んだ歌があります。万葉の時代から人々を惹きつけてきた、その独特な姿をススキと併せて観察してみませんか。

オミナエシ(スイカズラ科)
南園・蛇紋岩植生園にて 9/24撮影

園内では北園の芝生広場や南園の蛇紋岩植生園など、各所で見ごろとなっています。日本各地のほか、朝鮮半島、台湾、中国、シベリアに分布し、日当たりのよい山野の草地に生える多年草です。茎の先に鮮やかな黄色の花を散房状につけ、秋の野でもよく目立つ植物です。和名の「オミナエシ」の由来には諸説ありますが、古くから女性を意味する「おみな」と関連づけて考えられてきました。

こんこん山広場にて 9/24撮影

一方、近縁種に白い花を咲かせるオトコエシがあり、「男」の字が当てられます。

識別ポイントオミナエシオトコエシ
花黄色白色
葉・茎毛がない または 少ない毛が多い
葉の裂片細い幅広い
果実翼状の小苞はあまり発達しない翼状の小苞が発達する
全体の印象細身がっしり
葉や茎の毛の違い
果実の小苞の違い

オトコエシはオミナエシに比べて全体に毛が多く、葉の裂片も幅広いなど、よりがっしりとした印象から「男」を連想させたと考えられます。北園の芝生広場では両種を一緒に観察できるので、ぜひ見比べてみてください。

敗醤根(はいしょうこん)

オミナエシの根は乾燥させて薬用とし、生薬名は「敗醤根(はいしょうこん)」。敗醤根には、その名のとおり、醤油が傷んだような独特の臭気があります。敗醤根を実際に嗅ぐ機会はあまりないと思いますが、終わりかけの花にも花の香りの中に独特の臭いを感じるので、咲き始めの花と嗅ぎ比べてみるといいかもしれません。

広報課 西村佳明