ナガラッパバナが見ごろです(10/30更新)

今週の見ごろの植物
What’s in Bloom

毎週、園内を巡回しておとどけします。
ナガラッパバナ(ナス科)

温室のらせん階段やエレベーターを上ると頭上でナガラッパバナがたくさんの花を咲かせています。
本種はキューバ、イスパニョーラ島、ベネズエラ、エクアドル、ペルーにかけて分布する常緑のつる性木本です。花は咲き始めは淡黄色をしており、咲き進むと黄色みが強くなっていきます。花の寿命はあまり長くなく、園内では3日ほどで落花します。夜には強い芳香を放つそうですが、私は夜の香りを嗅いだことがありません。いつか香りを嗅いでみたいです。

花を横から見ると、花冠は細長い筒状になっています。和名のとおり、筒の先端だけが大きく開く、まさに「ラッパ」のような形の花です。中をのぞくと5本の雄しべと1本の雌しべがありました。

せっかくなので、花をじっくり観察してみます。萼筒は10センチほどあり、先が4裂します。花筒はそれよりも長く突き出し、開口部まで25センチもありました。


花冠を縦に切ってみると、長い花筒の内部がよく分かります。花筒の内部には10本の赤紫色の筋があって美しいです。雌しべは花の大きさに対してかなり小さな子房からまっすぐ伸長し、花冠から柱頭が飛び出します。
一方、雄しべは花筒の中ほどから内側に沿うように伸び、開口部の中央付近で葯を裂開して、まるで入り口で訪花生物を待ち構えているようです。夜間に芳香を放つという本種の花。長い花筒の奥にある蜜を求めてどんな生き物が訪花するのでしょうか。
こんな魅力的な花ですが、1点だけご注意を。ナス科の植物には有毒なものが多く知られています。W.C. Evansらによる1972年の研究では、ラッパバナ属の植物からアトロピンやヒヨスチアミンなどのトロパンアルカロイドが報告されています。これらはチョウセンアサガオ属などにも見られる成分で、神経系に作用します。落花した花が床に落ちていることもあり、拾いたくなるかもしれませんが、観察だけに留め、口に入れたり、植物の汁が付いた手で目や口を触ったりしないようにしましょう。
ヤナギノギク(キク科)

展示館の中庭と南園の蛇紋岩植生園ではヤナギノギクが見ごろです。
本種は高知県や静岡県などの蛇紋岩地に生育する植物で、日当たりのよい丘陵地の開けた乾燥地に見られます。牧野博士が高知市一宮で採集した標本をもとに、1898(明治31)年、「植物学雑誌」第12巻第139号において Aster leptocladus Makino として発表し、和名を提唱しました。その後、分類学的な検討によってヤマジノギクとの形態的な関係が見直され、現在ではヤマジノギクの変種 A. hispidus var. leptocladus として扱われています。


和名のとおり、柳を思わせる細い茎や葉が特徴です。草体は細く、まばらに分枝し、その先に淡い紫色の舌状花を持つ小柄な頭花を咲かせます。


さて、ここで少し横道にそれてみましょう。みなさんは蛇紋岩地(じゃもんがんち)と蛇紋岩植物をご存じでしょうか。
高知県には高知市郊外などに蛇紋岩が分布する地域があります。蛇紋岩は、岩石の表面に見られる模様や光沢が蛇の皮を思わせることから名付けられました。これが風化してできた土壌は、植物の生育に必要な養分が乏しいうえ、ニッケルやコバルトなどの重金属を多く含み、植物の根に生理的なストレスを与えるとされています。また、場所によっては岩石や土壌が崩れやすく、樹木が十分に成長する前に根返りしてしまうこともあります。このように、蛇紋岩地は多くの植物にとって生育が難しい環境です。
その一方で、こうした特殊な環境に適応して生育する植物もあります。蛇紋岩地に生育する植物には、葉が細くなる「狭葉化」、毛が減少する「無毛化」、植物体が小型になる「矮性化」、葉が厚く光沢を帯びる「肥厚光沢葉化」、植物体が灰色・紫色・青色を帯びる「灰紫青色化」など、さまざまな形態的特徴が見られます。また、蛇紋岩地に特有の植物も知られており、このような植物は「蛇紋岩植物」と呼ばれます。
ヤナギノギクも、蛇紋岩地に適応して生育する植物の一つです。植物にとって厳しい環境である一方、そこには本種を含むさまざまな希少植物が生育し、独特の植物相が育まれています。土地開発が進むエリアもありますが、長い時間をかけて形づくられた自然環境は、一度失われると元に戻すことは容易ではありません。こうしたかけがえのない環境が失われていくことに、個人的にはとても心を痛めています。
ゴシュユ(ミカン科)

北園の薬用植物区ではゴシュユが枝の先に赤みを帯びた未成熟な果実をつけています。本種は中国原産の落葉低木で、薬用に用いるため享保年間(1720年頃)に小石川御薬園へ導入されました。その後、全国に普及するのに伴い、各地で逸出しています。
雌雄異株で、日本には雌株のみが導入されているとされます。そのため、果実は赤みを帯びた段階からそれ以上発育せず、やがて黒く縮れて落果します。


このように、日本では種子による繁殖はできませんが、地下部が横走し、そこから芽を出して増殖するため、しばしば群落を形成します。また、枝を挿し木にすることで容易に発根・増殖します。

本種やその近縁種の果実を乾燥させたものは生薬「呉茱萸(ごしゅゆ)」とよばれ、呉茱萸湯などの漢方薬に配合されます。


赤みを帯びた果実を観察してみましょう。果皮には油室による小さなくぼみが多数確認できます。赤みを帯びた果実を横断(輪切り)してみました。ウンシュウミカン(いわゆる「みかん」)の皮をむくと、さわやかな香りが広がりますが、その香りのもととなる精油成分を蓄えているのが油室です。本種にも、果実の大きさからするとかなり大きめの油室が確認でき、ミカン科らしい特徴を観察することができました。果実は5つの室に分かれており、種子は十分に発達していない「しいな」でした。
父の代まで暮らしていた徳島の山あいの集落にもゴシュユが植えられています。私が子供のころ、祖母は体調を崩したときに本種の果実を花序柄ごと煮出して飲んでいました。煮出すと独特の香りが漂い、二階にいても気づいたほどです。当時は本種の名前も知りませんでしたが、植物園に就職し、「この植物だ!」と、記憶と目の前の植物がつながった時の衝撃はいまでも忘れられません。いつごろから植えられていたのか、祖母は何の不調に用いていたのか、今となっては分かりませんが、薬用植物が身近な暮らしの中で利用されていたことを感じさせてくれる植物の一つです。
広報課 西村佳明

